100年


あなたの祖母が生まれたときにみんなが感じた喜びをわたしは知らない。

あなたの母が生まれたときにみんなが感じた喜びをわたしは知らない。

あなたが生まれ たときにみんなが感じた喜びをわたしは知らない。


あなたの祖母が感じた憎しみも、

あなたの母が感じた蔑みも、

あなたが感じた苦しみもわたしは知らない。


あなたの祖母が死んだときにみんなが感じた悲しみをわたしは知らない。

あなたの母が死んだときにみんなが感じた悲しみをわたしは知らない。

あなたが死ぬとき にみんな感じる悲しみを、わたしは知ることができるだろうか。


あなたの祖母や母が死んだときに感じた悲しみも涙も悔しさもわたしは知らない。


あなたが死ぬ ときに感じる悲しみや涙や悔しさをわたしが知ったとしても、

100年後に生きる誰かには、この気持ちは伝わらない。



この苦しみも、悲しみも、痛みも、

わた しやあなたや、あなたの母や、あなたの祖母がそのとき確かに生きていて、

何かを感じていたことすら、100年後の誰かは知らない。


あなたの先祖や、あなたや、

わたしのこの思想は100年後の誰かは知らない。


知らない。

知らない。

知らない。


いつかは朽ちていくこの身も、思想も、いつか消えてしまうのに、

それでも人は考える。生きている。


あなたやわたしを知らない100年後の誰かのために子孫を作り、

そして100年後の誰かも同じことを考えるのだ。